TikTokを世界一アプリにした戦略 ビジネスモデル分析
『世界最速ビジネスモデル 中国スタートアップ図鑑』より
ブックコラムポイント② アルゴリズムの重要性を先取り
今日頭条アプリは2012年8月にリリースされ、わずか1年余りで9500万人にまで利用者を伸ばしました。成功の理由は逆転の発想にあります。スマホが普及して以来、すでに大手ポータルサイトによってニュース配信アプリは作られていましたが、内容は紙媒体の時代と同じでした。担当の編集者がいて、マスメディアとして万人が関心を持つニュースや重要なニュースを掲載していたため、すべての利用者に対して、同一の画面、同一のニュースを届けていたのです。
これに対して、今日頭条のニュースは、編集者によって収集・選別されたものではありません。利用者の好みに合わせて機械が選んで配信するものです。独自アルゴリズムによって、ネット上からからぴったりのニュースを集め、パーソナライズして利用者に届けているのです。
これを可能にしているのは、①コンテンツ情報、②ユーザー情報、③環境情報、から構成されるビッグデータです。バイトダンスは利用者の閲覧履歴や属性から、利用習慣、好み、場所、ならびに読む時間帯に合わせたニュースを提供しました。
このレコメンドのアルゴリズムが、後にTikTokをはじめとするさまざまなサービスに活用され、バイトダンスは急成長を成し遂げました。
広告もパーソナライズして配信
今日頭条は、ニュースだけではなく、広告も利用者のTPO(時間、場所、状況)に合わせてぴったりのものを示しています。
当初、投資家からの反応は冷ややかなものでした。「スマホは画面が小さい」「広告枠も限られる」「広告料収入を稼ぐのは難しい」という声がほとんどだったのです。
しかし、利用者にぴったりの広告を選んで配信できるのであれば、画面が小さくても問題になりません。むしろ利用者は、あふれんばかりの雑多な広告に悩まされることなく、関心のあるものだけを閲覧できるようになります。また、データが集まって最適化が進めば進むほど、コンバージョン率(閲覧して購買に至る率)も高くなることがわかってきました。
張さんがアルゴリズムの開発を呼びかけたのは、2012年の末、今日頭条をリリースした直後のことです。起業仲間たちとミーティングを開いたところ、当初、仲間たちはみな「能力不足で経験も足りない」と言ってアルゴリズムの開発に尻込みしたそうです。
他のスタートアップ企業もレコメンドアルゴリズムの開発には失敗していました。次善の策として、ニュース配信アプリの中に複数のチャンネルを準備して、利用者に選択肢を提示していたのです。しかし、張さんは、他社が失敗している状況だからこそ挑戦する意義があると仲間を鼓舞したそうです。
「個人最適化の問題を解決しなければ、イノベーションはわずかなものにとどまってしまう。モバイルインターネットから利益をいくらか得ることはできるかもしれないが、根本的なブレークスルーは不可能であり、真の価値を生み出すことはできない。根本的に問題を解決するために、常に一生懸命努力しなければならないんだ」
ポイント③コンテンツは外部から集める
アルゴリズムがあってもコンテンツがなければ配信はできません。バイトダンスはニュースコンテンツを作るのではなく、既存のものを流用しました。
ところが、そのやり方が良くありませんでした。原作者やメディアの許可なくニュースを配信したり、掲載された広告や出典元を許可なく削除して自社の広告に入れ替えてしまったりしたのです。さまざまなメディアから訴えられてしまいました。
そこで今日頭条は、各メディアと正式に契約を結んで承諾を得ることにします。契約先は、中央や地方の政府機関、新聞社やウェブメディアなど多岐にわたります。メディアとしては、正しく情報が掲載されるのであれば問題はありません。むしろ、閲覧者数が増えて広告料収入も入るというメリットがあります。
外部のメディアの記事に活路を見出したバイトダンスは、2014年に新しいサービスを始めます。メディア各社や政府機関は、アカウントを開設すれば、直接ニュースを書き込むことができるようにしました。
そのときすでに今日頭条には数千万人の利用者がいました。記事を書けばたくさんの利用者の目に触れることができます。そのため、メディア各社や政府機関は、こぞってアカウントを開設したのです。
ライターを育てて企業にプロモーション活動の場を提供
この仕組みは一般ライターにも広げられました。一定以上の人気があり、バイトダンスに認められたライターは、バイトダンスが立ち上げたプラットフォームを通じて、企業と契約してプロモーション活動の場を提供することもできます。プロモーション活動では、ライターが広告に最適化したトピックや内容の記事を作成します。
そしてこの仕組みがうまくいくという感触をつかんだバイトダンスは、一般ライターの育成プログラムを次々に立ち上げます。2015年、活躍しているライター1000人を選び出し、月1万元(約16万円)の基本収入を保証するなどして支援を行いました。投稿アカウントの数は2019年12月までに180万を超え、1日平均60万件の記事が発信されています。
個人のライターが書く記事は、それぞれの多様な視点が生かされたもので、大手メディアのそれとは一味違ったものとなります。これが今日頭条の魅力です。しかも、利用者には自分の好みや関心に合ったニュースがレコメンドされ、配信されます。閲覧すればするほどその履歴が今日頭条に蓄積され、アルゴリズムによって解析されるのでレコメンドの精度も上がります。ニュースとともに配信される広告も、利用者の好みや関心に合ったものになるので広告媒体としての価値も高まるのです。
こうして今日頭条が成功を収め、ビジネスモデルの原型が定まりました。バイトダンスは、今日頭条で培ったビジネスモデルの原型を他の領域に横展開して成長を加速させます。そのビジネスモデルをピクト図解(板橋悟さんが考案。板橋悟著『ビジネスモデルを見える化するピクト図解』ダイヤモンド社などを参照)で示すと、次のようになります。
ポイント④ ビジネスモデルを横展開
バイトダンスのビジネスモデルの強みは、①外部コンテンツの有効活用、②アルゴリズムを活用したコンテンツ配信、③アルゴリズムを活用した広告提供、という3つです。
これが生かせる領域としてショートムービーに白羽の矢が立ちました。2016年にスマホ向けのアプリ(10数秒から数分の動画を撮影、編集、共有するもの)を開発し、ショートムービーの業界に参入したのです。
その代表がTikTokの原型となる抖音(ドウイン)です。抖音は、音楽機能に特化したショートムービーアプリです。
バイトダンスは今日頭条で開発したアルゴリズムを抖音に活用しました。アルゴリズムがあれば利用者の視聴履歴はビッグデータとして解析できます。それぞれの好みに応じて動画を次から次へと流すことができるので、利用者としては、1曲だけのつもりが、気がつけば2曲、3曲と動画に釘付けとなります。利用者が関心を持ちそうな広告が短い動画のコ ンテンツとして流されるので、利用者はそれも眺めることになります。

ニュース配信アプリ「今日頭条」のピクト図解(『世界最速ビジネスモデル』185ページに掲載)