TikTokを世界一アプリにした戦略 ビジネスモデル分析
『世界最速ビジネスモデル 中国スタートアップ図鑑』より
ブックコラム動画アプリは他社の模倣だがアルゴリズムで勝利
抖音は、先行していたショートムービー「Musical.ly」を手本にしたものです。Musical.lyは、中国人の起業家である朱駿(ジュ・ジュン)さんと楊陸育(ヤン・ルーユー)さんによって2014年7月にリリースされました。音楽機能に特化し、人気歌手の曲に合わせて15秒の口パクやダンス動画を制作・共有できるものでした。
注目すべきは、Musical.lyはアメリカ市場にも同時に投入されたという点です。ちょうどその頃、アメリカでは『リップ・シンク・バトル』という口パクコンテストの番組が流行っていました。Musical.lyのアプリは話題になり、毎日約500人がダウンロードして利用したそうです。とくに、毎週木曜日、この番組が放送された後にたくさんの人がダウンロードして、大成功を収めたそうです。
アメリカ市場での反応が中国国内をはるかに上回ったので、Musical.lyの経営陣は資源をアメリカ市場に集中させます。しかし、これが思わぬ結果を引き起こします。のちに中国市場を開拓しようとしたとき、すでに抖音をはじめとした競合に市場を占められてしまったのです。
抖音はMusical.lyを徹底的に模倣しました。トップページのUI(ユーザーインターフェイス)ばかりでなく、基本機能もほぼ同じです。利用者を増やすための打ち手であるハッシュタグの運営もまったく同じです。
Musical.lyはUIの基本機能などで先進的だったのですが、最適なレコメンドをするためのアルゴリズムについては大きく後れを取り、挽回することができませんでした。
外国市場への展開を開始
抖音で大成功を収めたバイトダンスは、2017年、同様のサービスを外国向けに展開します。サービス名を「TikTok」として150の国・地域へと市場を広げていきました。そしてついに世界一のアプリとなったのです。
最初はニュース配信アプリからスタートしたバイトダンスですが、次はそれをショートムービーへと展開しました。そして、そのアプリを中国国内から、外国市場へと横展開していったのです。

バイトダンスの横展開による成長(『世界最速ビジネスモデル』196~197ページに掲載)
このようにバイトダンスの基本戦略はきわめて単純です。まず、利用者の閲覧履歴などの行動情報をもとに利用者にぴったりのコンテンツをレコメンドするという技術を開発しました。そして、この独自技術を生かしてキラーアプリを開発して世界中に広げていきました。次に、自社のアプリの利用者を拡大し、できるだけ長い時間そこに留まらせ、膨大なトラフィックを確保しました。トラフィックが増えれば増えるほど、広告料収入を伸ばすことができるのです。


[日経ビジネス電子版 2021年8月27日の記事を再構成]