自分はもう役立たず? 役職定年の50代こそ新人研修を
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イトイさんの頭に浮かんだのは、「仕事で何かをやり遂げて退職する」というよりも、「たくさんの同僚に温かく送り出してもらいたい」ということでした(写真はイメージ)=PIXTA
とはいえ最初は何をしていいか迷いました。昭和の時代でもないし、いきなり机の上を拭いたりしてもメンバーは戸惑うでしょう。試行錯誤した結果、最も継続しやすく効果があると感じたのが「同僚に元気良くあいさつする」ことでした。
それまで職場の同僚へのあいさつなど意識的にしたことがなかったのですが、いざ心がけてみると好意的な反応があり、従来よりもコミュニケーションが活発になりました。これによってなんだか自分の居場所を自分で獲得できたような気がして、仕事に張りが出たそうです。
週1度のミーティングが上司にとっても有意義な時間に
あいさつといえば、社会人の基本中の基本です。つまりイトイさんが役職定年後に実践したのは、新入社員研修で新人が教わるようなことでした。自分の部署に配属された新人も同じように大きな声であいさつしているのを見て、ライバルのような仲間のような感覚を抱きました。
そして新人とも打ち解けたイトイさんは、新入社員研修のテキストを見せてもらいました。あいさつと並んでテキストに記載されていたのが、報連相(報告・連絡・相談)の大切さです。
だったら自分もやってみようと、上司に週1度の短時間ミーティングを希望したイトイさん。上司は「定期的に文句や愚痴を言われるのか」と最初は身構えたようですが、杞憂(きゆう)に終わりました。イトイさんは役職の責任がなくなった分、報告と合わせて無意識に前向きな提案をするようになったのです。
あいさつ運動の結果、イトイさんはメンバーとも密にコミュニケーションが取れ、職場の状況をよく把握していました。上司にとってイトイさんとのミーティングは、職場をより理解できる有意義な時間になったのです。
ミーティングでは「次は整理整頓に取り組もう」という話になったそうです。これも社会人の基本です。勝手に片付けるのも角が立つし、新型コロナウイルス禍では消毒の問題もあるしどうしたらよいかと思案するイトイさんは、とても楽しそうです。
定年までの時間をどう過ごしたらよいかと悩んでいる50代の皆さんは、試しに新入社員研修のテキストを新人から借りてみてはいかがでしょうか。イトイさんのように、ベテラン社員が取り組むからこそ面白い効果があるかもしれません。
アネックス代表取締役/人事コンサルタント
早稲田大学商学部卒業後、IT企業、金融機関にて人事業務を経験。株式会社アネックス、一般社団法人次世代人材育成機構の代表として、働きやすい職場づくりを主なテーマとし、企業の人事、人材開発のコンサルタントを行っている。次世代人材育成機構では、代表理事として、学生の就職活動へのアドバイスや、社会人のキャリア支援を20年以上手掛けている。著書に『転職エバンジェリストの技術系成功メソッド』『オンライン講座を頼まれた時に読む本』(いずれも日経BP発行)がある。