転職スカウトを呼び込む技 SNSで自己PRを発信
エグゼクティブ層中心の転職エージェント 森本千賀子
次世代リーダーの転職学転職意思はなかったけれど、転職を決意したAさんのケース
実際、転職を考えていなかった人がLinkedInを通じて転職エージェントの目に留まり、転職に至った事例を紹介しましょう。
私はある企業から「海外市場でのブランド戦略を任せられる人材を採用したい」という依頼を受け、「海外」をキーワードに、候補者となりそうな人材のサーチを行いました。そこで、目に留まったのが、LinkedInにプロフィルを公開していたAさん(40代)です。
Aさんは「転職するつもりはないのですが」という前提ながら、「情報収集はしておきたいので」と面談に臨んでくれました。
話を聞くと、Aさんは「海外に関わる仕事がしたい」と、今の会社に転職。ところが、新型コロナウイルス禍の影響で海外事業がうまく進まなくなり、会社は国内事業の強化へ舵(かじ)を切ったそうです。
それでもAさんは、国内向けのミッションに前向きに取り組み、やりがいを感じていました。それに、「時が来れば自社の海外事業も復活するだろう」と考えていたので、転職しようとは考えていなかったのです。
Aさんのキャリアと志向をじっくり聞くと、当初お声がけした求人案件にはあまりマッチしていませんでした。しかし、Aさんから、海外ビジネスに対する思いやこだわりをお聴きするうちに、私の頭の中に、別の会社・X社が思い浮かんだのです。
X社から海外ビジネス要員の求人依頼を受けていたわけではありません。けれど、「あの社長はこの先、こんなビジョンを描いているはず。そのミッションにAさんがマッチしているのでは」と考えました。
そこで、Aさんに了承をとったうえで、X社の社長に「こんな人材がいるけれど、会ってみませんか」とお声がけしました。すると、「まさに求めていた人材」「ぜひお会いしたい」となりました。そして、Aさんも、「海外ベンチャーとアライアンスを組んで新規事業を創出する」というミッションに「まさに自分がやりたかった仕事」と、転職を決意されたのです。
実は、私の転職エージェント業では、このようなパターンの「ポジションサーチ」がきっかけでのマッチング成立が多くを占めています。企業経営者と対話する中で、今後の事業計画や事業戦略に基づき、組織課題や潜在ニーズをキャッチし、ケミストリー(化学反応)が生まれそうな候補者とのマッチングを行います。候補者の承諾のもと、経営者に直接掛け合い、カジュアルな面談の場をセッティング。双方のご縁のきっかけを演出します。
そして、こうした動きをするのは、私が特別というわけではありません。中小・大手に限らず、多くの転職エージェントやヘッドハンターたちが、このようなスタイルで人材のサーチ、マッチングを行っています。コロナ禍の中、オンライン面談を活用し、忙しい経営者にも面談に応じてもらいやすくなりました。
転職エージェントだけではありません。企業の人事担当者、特に「リクルーター」と呼ばれるポジションの採用担当者も、同じような活動をしています。
さらに言えば、ベンチャー企業の経営者もです。経営者の中には「自分の仕事の半分は人材獲得(採用)」と言う人もいるほどです。経営者自身がSNSなどをチェックして、人材をサーチしているケースも多々あります。
Aさんの事例のように、転職するつもりがなくても自身のキャリアや志向を発信しておくことで、転職エージェント、企業の採用担当者、経営者などの目に留まる可能性があります。その縁により、自分では思いもよらなかった業種やポジションに活躍のステージを見いだせるかもしれません。皆さんも、チャンスを呼び込むような発信をしてみてはいかがでしょうか。