「社長は最低でも10年」 丸井グループ・青井社長
ニューススクール伊藤 私が提唱している「ROESG」という新しい経営指標がある。これはESGスコアとROEを使って企業を総合評価したものだが、2021年に日本経済新聞社が実施したROESG調査では世界の断トツはデンマークの医薬品企業、ノボノルディスクだった。インスリンなど糖尿病治療薬を開発・販売し、世界の半分のシェアを持っているが、アジアやアフリカの貧困層の子供たちに治療薬を低廉で販売したり、場合によっては無償提供したりして、世界中から称賛されている。こんな会社の従業員は「我々はウエルビーイングに貢献している」と誇りを持つ。その結果、資本市場の評価も高く、財務的にもプラスの循環をもたらしている。この会社にROEとESGが溶け合う姿を見た思いだ。
青井 ESG関連など「プレ財務(非財務)」になると、時間は相当かかるが、必ず財務全体にプラスに反映されると、私も信念を持って経営にあたっている。社長になった頃は経営危機で5~6年は身も心もボロボロだった。しかし、そんな経験があったから、ESGの重要性も認識できた。

伊藤氏は「ROESG」という新しい経営指標を提唱する
伊藤 ESG経営を進めていく過程で、多様なステークホルダーに対応するように、丸井グループの取締役会のメンバーを大きく変えた。
青井 6月にお客様や株主、社員など6つのステークホルダーの視点を生かす経営体制に改めた。取締役を6人として、新たに株主でもある投資家の中神康議氏(みさき投資社長)とサステナビリティー(持続可能性)の専門家、NPO法人ネリス代表理事のピーターD・ピーダーセン氏、そして社内からは専属産業医の小島玲子氏の3人を迎えた。日本の企業は時間をかけて株主と向き合っている会社は少ないと思う。欧米市場からの評価も高いとは言えない。それもあり、あえて株主で投資家の方も入ってもらった。取締役会のダイバーシティー(多様性)が進み、議論が活発になっている。
「真っすぐな経営をやりたい」
伊藤 今後、どんな経営をやっていきたいと考えていますか。
青井 真っすぐな経営をやりたい。社員がやりがいを持ち、お客様や地域の人に喜ばれ、株主も満足してもらえるような会社にしたい。いずれかのステークホルダーが分断するのではなく、皆が納得し、すっと流れるような経営を追求したい。とにかく人が働くことで幸せを感じられる会社にしたい。18世紀の産業革命移行、人間は機械のパーツの1つみたいになっているのではないか。今、人工知能(AI)に取って代わられると不安がる人も増えている。人間性を取り戻さないといけない。利益もしっかり上げ、「ウエルビーイング」を皆が感じられるような存在にならないと会社の価値は生まれないと考えている。
(代慶達也)