逃げてきた哲学者 なぜ全米トップ進学校の校長に
ニューススクールスタンフォード名物教授が始めたオンライン中高に

少数精鋭方式で全米トップに進学校に
星校長は「米国には、日本のようなエレベーター式の付属校はないが、教育・研究のためのラボスクール、実験校は存在する。うちの場合、エレベーター式でスタンフォードに入学はできないが、すでに同大への進学率は全米でトップクラスになっている」という。スタンフォードは分散的なガバナンス体制を構築している。このオンラン中高は、同大の名物教授が「コンピューターと教育」をテーマに2006年に開校した独自の中等教育機関だ。星校長はこの教授に誘われ、同校に運営に携わるようになった。財団の資金5億円を調達、当初5人の生徒からスタートした。
なぜ大学ではなく、中高の先生となったのか。
「大学の博士課程で一時学生に教えていたが、ものすごく嫌だったのがきっかけだ」という。スタンフォード大の学生はいずれも頭脳明晰(めいせき)、「自分があえて教える必要などない」と自己嫌悪に陥った。一方、オンラインハイスクールの高校生と交わると、「哲学に触れたことのない高校生に少し教えただけで、1カ月後には哲学の論議をするなど、みるみる成長し、やりがいを感じた」という。そこから学習プログラムやマネジメントを中心に同校の運営に携わり、16年には校長に就任した。
米国では自宅学習者200万人、少数精鋭で進学校に
もともと米国ではオンライン教育のニーズが高い。大半の地域ではクルマやスクールバスなどで通学しなくてはいけないし、街によっては治安が悪く、劣悪な教育環境の学校も少なくない。結果、自宅で学習する「ホームスクーリング」制度を選択する子供は200万人を超すとも言われている。コロナ禍の中で日本の小中の不登校生は25万人に達したが、背景の教育事情は大きく異なる。
スタンフォードというブランドを冠したオンラインハイスクールは開校当初から全米の注目を集めた。しかし、「オンラインを活用して生徒数を拡大させるのではなく、質的向上を追求した。当初は赤字を垂れ流し、お前はバカかと批判されながら、少数精鋭の教育体制を整えた」という。
現在、中高の全生徒数は約900人。各学年は150人程度にとどめている。一方で教員は約90人のうち80人が常勤で全員が修士以上、実に3分の1が博士号取得者だ。当初は半数が不登校などホームスクーリングの生徒だったが、優秀で多様な生徒が集まり、全米の進学実績でトップ校となった。