若手4人のモヤモヤからキリン大学 シニアも巻き込む
「企業内大学」のつくりかた vol.3 キリンアカデミア
リスキリング戦略
キリンアカデミアに合流した森さんはキャリアコンサルとして活動している
「つらいなら、辞めればいいのに」。50代の社内のキャリアデザイン研修に参加した森美江さんは、同期の男性社員の暗い雰囲気に思わず顔をしかめた。研修を受講した6人グループのうち自分以外は男性社員。いずれもバブル入社組でビールの営業の最前線でバリバリ仕事をしてきた仲間だ。大半が57歳で役職定年を迎え、役割が見直され、年収もだんだん下がってゆく。大企業なので65歳まで会社が面倒を見てくれるが、「それでいいのか」と悩んだ。
グループの姿もデジタル化で営業などの手法も様変わりした。「自分の市場価値も分からないし、いまさら転職しても」と嘆く同期の男性社員らの声を聞きながら、セカンドキャリアを輝かせる術はないかと考えた。
悩む中高年も参加、キャリコンに24人が合格
森さんは、キャリアコンサルタントの国家資格を取得。社外との副業なども模索していた頃、キリンアカデミアの存在を知った。「意識高い系の若手社員の集まり、自分たちとは関係がない」と思っていたが、興味あったサイボウズの働き方のセミナーがあるというので、イベントに参加した。
「一緒にやりましょう」と田中さんらから声をかけられた。運営メンバーとして参加、様々なイベントなどの企画を仕掛けた。養成講座で担任講師だった人材開発サービスの日本マンパワー会長の田中稔哉さんが地元の東京・中野在住だと知り、「セカンドキャリアの見つけ方」などのセミナーを開催してもらったりした。セミナーには毎回200人前後の社員が集まり、現在までに実に24人がキャリアコンサルタントの資格を取得した。リスキリングの場としても機能を始めた。
人事総務部の山口和子さんは、「キリンアカデミアは、若手とシニアがいい意味で『合流』して学び合いの場になった。キャリアコンサルは人事部門に必要な資格のイメージだったが、今は営業など現場のチームリーダーでもとる人が増えた。今の上司は若手や中高年のキャリア形成に向き合う必要があるからだ」。山口さん自身も営業部門のリーダーの頃、この資格を取得したという。
パナソニックなど55社の有志の会で優勝
グループ内には医薬品メーカーの協和キリンも存在する。「MR不要論」も渦巻く中、同社社員も学びのイベントには積極的に参加する。グループ主要各社にも有志の会が次々誕生している。グループ内で110のイベントが開かれ、累計で6400人を超す社員が応募したという。
パナソニック、トヨタ、NTTグループなど55の大手企業の有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN」。10月下旬に開かれた「有志活動総選挙」でキリンアカデミアは見事に優勝した。この1年間の活動内容を共有、審査するが、トップの評価を得たのだ。
現在、日本の大企業は社員のリスキリングに躍起になっている。だが、会社主導の人材教育には限界がある。若手社員のモヤモヤから始まった非公式の「キリン企業内大学」。シニアやグループ内外の社員も巻き込み、創業120年を超す伝統企業の人材を再び躍動させ始めている。
(代慶達也)