資料が伝わらない 押さえるべきは「誰に」「何を」
【新任役員の苦悩】編 (2) 資料が社長に刺さらない
会社員社長1年目の教科書競合の価格が頭に入っていない人には、競合の価格の変化から説明しなくてはいけない。既に競合の価格を知っている人に対しては、「なぜ自社も競合に合わせて値段を下げなくてはいけないのか」という理由の説明により注力すべきだろう。
こうして相手に対して伝えることが明確になれば、資料の見た目もきれいで無駄がないものにすることができる。
本書の第8章に実際の例があり、「競合に対抗するために自社の製品価格を下げるべきだ」という主張を伝えるための資料が複数枚掲載されている。縦軸に価格、横軸に時間をとった2軸の上に、資料のページが進むごとに徐々に情報が重ねられていき、競合の製品価格がどう変化してきたかがすんなりと頭に入るようになっている。
1枚目の資料は、最初に市場に参入した2社の製品価格を表す2つの点だけが示されている。次にその2社の価格が下がっていく折れ線グラフが描かれる。その次の資料で新たな競合3社の参入を示す3つの点があらわれる。そしてさらに3社の価格推移の折れ線グラフが重ねられていく。最終的には5社の価格が一定水準に収まっていることが見て取れる。
ぐちゃぐちゃと折れ線が重なったグラフ1つを見せられるよりも、とても効果的に情報を伝えられている様子が分かるので、ぜひ読んでみていただきたい。
伝えたい内容に納得感はあるか?

さて、話をしたい相手のことにどんなに詳しくても、自分の伝えたい内容に説得力がなければ意味がない。先の例でいえば、価格が下がっている状態をきれいなグラフで見せられたとしても、「なぜ自社も価格を下げなくてはいけないのか?」という点についての理由に妥当性がなければ相手は納得してくれない。
自分のストーリーの論理性を養うために、野矢茂樹『新版 論理トレーニング』(産業図書)をお薦めしたい。
本書はビジネス本ではなく大学の教科書であるが、平易な言葉を可能な限り使い、我々に論理構築方法や、論理の穴の見つけ方を教えてくれる。
筆者が考えるに、ビジネスの日常にすぐ使いやすい本書の方法論は、①接続詞(「しかし」「すなわち」など)をしっかり使う②曖昧な言葉を具体的にする――の2つだ。
接続詞は、論理をつなげていく部品のようなものだ。例えば、「自社も価格を下げなくてはいけない」のあとに、「なぜならば」という接続詞をつけてみるだけで、論理を構築するきっかけになる。
もしあなたが、「そんな当たり前のことを言われても」と思っていたら要注意だ。接続詞の後にしっかりと文章を続けることは実は難しい。筆者も顧客への報告資料を作るときにはパワーポイントを書く前に、自分の言いたいことをワードで書き起こす。その際に一番怖い接続詞が「なぜならば」だ。
「価格を下げるべきだ」などの主義主張は簡単に出てくる。しかし「なぜならば」のあとに続く文章に説得力を持たせるのは、至難の業だ。競合が価格を下げているからと言っても、「なぜ他人のまねを自分がしなくてはいけないのか」ときっと反論される。むしろ自社だけ価格を上げてはダメなのか、なぜ、それができないのか……と次々反論がぶつけられる。