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日本マイクロソフトが、政府・官公庁や地方自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた支援を加速させている。官公庁・自治体等から人材を受け入れてスキリングを進めているほか、ユーザーコミュニティを通じてナレッジの共有も促している。公共・社会基盤営業統括本部 公共戦略営業本部 本部長の宮崎翔太氏、同統括本部 自治体営業本部 本部長の桐戸優作氏に、これまでの経緯や今後の戦略を聞いた。

日本マイクロソフト 公共・社会基盤営業統括本部 公共戦略営業本部 本部長 宮崎 翔太 氏(右) 同統括本部 自治体営業本部 本部長 桐戸 優作 氏(左)

※本記事では、ITスキルを持った人材がDX推進などのデジタル人材に成長するための取り組みを「スキリング」、ITスキルがない人材が新たにスキルを取得するための学び直しを「リスキリング」と定義している。

――国の機関や地方自治体はDXが遅れているという印象を持たれがちですが、どこに原因があると考えますか。

桐戸 デジタル庁もおっしゃっているとおり、DXやIT(情報技術)に関して高度に洗練されたデジタル人材が国の機関や地方自治体の中で不足している点は大きいと思います。官民が協力しながら、国を挙げてデジタル人材を育成していくことは今後も最重要課題の1つだと思います。

この問題に対処するために、マイクロソフトでは、官公庁・自治体職員とパートナーのエンジニアとの交流を深めるようなユーザーコミュニティ(MICUG:マイカグ)の公共分科会を立ち上げました。DXに関するベストプラクティスが自然と横に広がっていくような活動を期待しています。

また、一部の自治体やパートナーとは連携協定を締結し、その一環として600時間を超えるDX人材へのリスキリングの研修をマイクロソフトから提供させていただいております。これも課題解決に向けた一助になっているのではないかと思います。

さらに、官公庁・自治体の職員をフェロー、トレーニーとして受け入れて、一緒に官公庁・自治体のDX加速のための戦略を描く取り組みを加速しています。一定期間マイクロソフトで働いた後は、所属元に戻って官民のノウハウ・アイデア・技術をミックスさせていくことが狙いです。

こういった活動を通じて、マイクロソフトとしてもデジタル人材の育成に貢献していきたいと考えております。

サイバー人材、防衛省から受け入れ育成

――政府レベルとの連携状況を教えてください。

宮崎 我々の本部では防衛省や警察庁といった中央省庁に加えて、全国の県警、政府系金融機関、日本郵政グループ、JAグループ、NEXCOグループ、JAXA(宇宙航空研究開発機構)といった組織を担当しています。中でも防衛省・自衛隊とは、米国本社が米国防総省の様々な事業を支援していることもあり、官民連携で有事に備えるという点からサイバー人材の育成の面でも協力しています。

ロシアによるウクライナ侵攻など地政学的リスクが高まる中、日本の安全保障のためには国際協調が不可欠です。また、日本の防衛に関わるサイバー専門人材は890人(2023年3月末時点)と、諸外国の数千〜数万人に比べて大変少ない状況です。政府は2027年までに4000人規模に増員すると発表しましたが、民間人材活用の議論だけではなく、まずは在籍されている自衛官のスキルアップが極めて重要になってきます。

マイクロソフトの防衛省担当チームは現職の自衛官の方を受け入れるグローバル・フェローシップ・プログラムを展開しています。短い方で10カ月、長い方ですと1年半、セキュリティやAI(人工知能)、(あらゆるモノがネットにつながる)IoTといった技術についてグローバルな研修を受けていただいています。技術面だけでなく、戦略立案やリーダーシップスキルの習得、イスラエルにあるサイバーセキュリティの研究・開発拠点での研修もあります。2021年4月に1人目を受け入れ、現在は4人目の方が研修中です。

「研修を受けられた方々が、防衛省・自衛隊におけるエバンジェリストのような存在になってほしいですね」(宮崎氏)

「研修を受けられた方々が、防衛省・自衛隊におけるエバンジェリストのような存在になってほしいですね」(宮崎氏)

――これまでの協業は、防衛省と御社それぞれにどのような効果をもたらしましたか。

宮崎 フェローとして当社に在籍いただいた方々からは、テクノロジーの習得に加えてグローバルレベルでの人脈を築けたとフィードバックをいただきました。また「意思決定の面などカルチャーの部分でも影響を受けた」との声もありました。研修を受けられた方々が、防衛省・自衛隊におけるエバンジェリスト(伝道師)のような存在になってほしいですね。

逆に我々としても、日本の安全保障の現状や課題などをより深く理解できるようになり、大変勉強になっています。また、フェローの受け入れだけでなく、現場隊員の方々へテクノロジーの有用性を体感いただくため、遠方の基地や駐屯地にてワークショップを実施させていただくこともあります。私も先日地方の駐屯地を訪問しましたが、実際に現場を見学させていただく機会や隊員の皆様との対話を通じて、我々自身の人材育成にもつながっていることを実感しています。

サイバーセキュリティ業務は何も発生しないのが「当たり前」と見られ、いざ案件が発生すると大きな責任を問われます。民間から高度サイバー人材を採用するには報酬を上げなければならないという議論は起きますが、それだけでなく、我々の何気ない日常がサイバー人材を含む自衛隊の皆様など、多くの方々の存在によって成り立っていること、そういった仕事の意義ややりがいを私たちなりにも多くの方へ伝えていきたいと思います。

東京都と包括連携協定、AI利活用も支援へ

――自治体との連携協定は、どのような感じで進展していますか。

宮崎 長く続いている事例の1つとして佐賀市があります。2016年にIT人材の育成に向けて「Microsoft AI & Innovation Center SAGA」を開設し、市や佐賀県、佐賀大学、地元企業と連携を進めてきました。テレワークを通じて地元住民が東京の企業での就業や研修参加が可能になるなど様々な政策連携により、佐賀市が九州・沖縄地域のテレワーク環境第1位(2021年日本経済新聞の調査)になるなど、この数年間でIT企業が相次いで進出し約700人の雇用が生まれたというフィードバックをいただきました。そういった事例を積み重ね、直近では10以上の自治体と取り組みを進めています。一部の自治体からは、人材育成のために職員を受け入れています。

桐戸 これまで様々な自治体とマイクロソフトは連携協定を締結させていただきましたが、直近では2023年2月の東京都の例があります。これまでも東京都の働き方改革を支援させていただいておりましたが、この協定では

・東京のフィールドを生かした先進サービスの創出に関すること
・クラウドインフラをベースとした行政DXの推進に関すること
・都及び区市町村職員の人材育成に関すること
・国内外の行政機関等とのネットワーク構築に関すること

が定義されており、これからますますDXを促進していく段階になります。マイクロソフトとして人材育成に関するご協力と合わせて昨今話題となっている生成AIの利活用など多様なご支援をしていきたいと考えています。

東京都と包括連携協定を締結し、「今後ますますDXを促進していく」と語る桐戸氏

東京都と包括連携協定を締結し、「今後ますますDXを促進していく」と語る桐戸氏

宮崎 連携協定やMICUGに加えて、2022年12月から、ローコードやノーコードの開発についての研修をハンズオン形式で3回開催しました。官公庁や政府系金融、公共インフラの関係者、自治体の方々も多かったです。(システムの老朽化でDXの進展に支障を来す)「2025年の崖」に備えて自分たちでアプリ開発などができることにより、ベンダーに発注する際にも高い精度を持った要件定義ができるようになります。ローコードやノーコード開発はITの専門部署だけではなく、現場が知識を習得することで「自分たちでどうテクノロジーを使って解決できるか」といったように意識や組織文化が変わっていくことも期待されますし、ご要望のあるお客様には当社社員がファシリテーターとして参加する個別のアイデアソンやハッカソンも行いました。多くのお客様において、既存のIT環境でマイクロソフトの技術をご利用いただいているため、新しい技術への移行も比較的容易となり、当社としてもこの分野をリードしていきたいと思います。

――自治体のDXの支援では、NTT西日本と協業を始めますね。

桐戸 全国1700以上の自治体がある中で、パートナーとの連携はとても重要なパーツになります。大手SIer(システムインテグレーター)からスタートアップまで当社は幅広いパートナーと官公庁・自治体領域でも連携をしております。その一環として、先日NTT西日本との自治体領域における連携協定を発表させていただきました。NTT西日本とは、政府共通のシステム基盤である「ガバメントクラウド」のパッケージを提供する地方のISV(独立系ソフトウエア会社)のクラウドリフト・シフトを支援することも含まれています。マイクロソフトだけで手が届かない地方のDXをパートナーと連携しながら実現していきたいと考えています。

日本の社会動態の変化に対応する手段に

――岸田内閣が進めている、リスキリングなど人への投資促進に5年で1兆円を投じる政策パッケージも大きいですね。

桐戸 マイクロソフトとしても岸田内閣のリスキリングの施策に協力したいと考えております。具体的には、岸田内閣の方針を受けて拡充した厚生労働省の支援策(高度デジタル人材訓練)の対象にマイクロソフトのサービスに関する各種講座が加わるようスキル標準ユーザー協会と相談の上、調整しました。

この支援策は、様々な資格講座や研修等に対して補助金(中小企業であれば研修費の75%相当以上/大企業であれば60%相当以上)が出る仕組みになっています。本稿をご覧の方でマイクロソフトのサービスに関する資格講座や研修等にご興味ある方は、是非日頃お付き合いのある研修会社にご相談ください。補助の対象となる研修含めIPA(情報処理推進機構)が運営するマナビDXにも研修の掲載があります。

――今後の展望をお聞かせください。

桐戸 人口減社会で自治体の職員の数も減る中、課せられている業務の数は変わらないのでデジタルの活用は必須です。パートナー企業や自治体へのスキリングを通じて、日本の社会動態の変化に対応できる1つの手段になれるようにしたいと思います。中央省庁とも連携しながら、デジタル化のメリットを住民の皆様にも還元できるようにしていきたいです。

宮崎 今回ご紹介した人材育成の取り組みは目的ではなく手段であり、結果が目に見えるまでに時間がかかります。また、挑戦して、失敗から学び、再度素早く挑戦するマインドセットが鍵になります。当社としてはこのPDCAサイクルを加速させるお手伝いをしつつ、「継続を力」としてお客様のパートナーとして伴走していきたいと考えています。今後はサイバー関連の取り組み強化に加え、国内外のいろいろな省庁、自治体、企業と連携して「AIを活用した働き方」などのテーマも展開していきます。

日本マイクロソフトが展開するデジタル人材育成支援の詳細はこちら(PDFダウンロード)

「MICUG」公共・行政関連分科会

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