良書選び、繰り返し読む
ユニ・チャーム社長 高原豪久氏


たかはら・たかひさ 1961年生まれ。成城大卒。三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)を経て、91年ユニ・チャーム入社。95年取締役。2001年から現職。
父(ユニ・チャーム創業者、高原慶一朗)と親交のあった経営コンサルタントの田辺昇一さんが四国に来られた際に、愛媛県川之江市(現在の四国中央市)の私の実家に立ち寄られ、その際に「お年玉」としていただいたことを覚えています。刊行は1970年12月ですが、翌年1月の松の内が明けたばかりのころだったと思います。
その後、中高一貫全寮制の学校に入るにあたり、荷物をまとめていた時、自然とこの本に手が伸びて、なぜか、かばんに入れました。頭のどこかにタイトルが引っかかっていたのかもしれません。寮生活では様々な友人に囲まれ、日々いろいろな出来事がありました。楽しい思い出が多いのですが、時には人間関係に疲れ、思い悩むこともあります。そんな折に、この本は多くの気付きを与えてくれました。
学んだことは無数にありますが、第四章「人間の魅力」の「継続は力なり」は、私が今日ユニ・チャームを経営するにあたり最も大切にしている「凡事徹底が非凡を生む」という信念を持つに至った大事な一節です。「なんでも一万回やれば、超一流になれる。(中略)目標意識を明確にすることが粘り強さを養うコツである。目標意識をもって、なにごとでも三ヵ月続ければそれが習慣になる。習慣になれば、あとは楽に目標を達成することができる」との言葉にどれだけ勇気づけられたか分かりません。
また、第三章「成功の条件」には「国際感覚がなければ孤立する」という一節があり「国際的視野でものを考えるというのは、先入観・偏見を捨てて、大所高所から、人間性に照らしてものを考える、ということだ」と記されています。我が社の海外展開でも、この「先入観・偏見を捨てて」を常に肝に銘じて事に当たっているつもりです。
米国留学中は、マイノリティーの置かれる状況を身をもって知りました。日本が敗戦国であることも、実感しました。とても驚いたのですが、当時の米国では歴史の授業は現代から近代へ、近代から中世へと時代を遡るように進められます。よって入学して間もない時期に先の大戦について授業を受けることになりました。まだ英語を聞き取ることさえおぼつかないのに「タカヒサ、原爆を投下したアメリカの判断をどう思う?」と質問されてもうまく答えられるはずもありません。
英語力の問題もありますが、それ以上に日本の歴史、特に近代史や現代史について何も知らないことを痛感しました。米国留学で学んだのは「母国の歴史を学ぶことは国民の務めである」ということです。以来、日本の歴史について問題意識を持って学ぶことは私の習慣の一つになりました。また、グローバルに活躍することを目指す若いビジネスパーソンにどのような研さんを積むべきかと尋ねられると必ず「日本の歴史や文化について学びなさい」と答えるようにしています。

どんなに忙しくても月に数回は大型書店に赴き、気になった本を購入します。ネット書店も活用しますが、書店を歩き回り、様々なジャンルの表紙を眺めるといろいろな気付きを得ることができます。読書に割く時間は限られるので、多読するというより「これは!」と思った本を繰り返し読むようにしています。冒頭に掲げた『人間の魅力』で田辺氏は、読書について「知識を消化して知恵に高めなければ、単なるマニアに終わるだろう」と説いています。
我が社では、愛読書に挙げた『仮説思考』や『経営者になる 経営者を育てる』といった何冊かの本を社員全員で熟読し、内容の一部を「ユニ・チャーム語録」という冊子に収録し、共通言語にするといった活用をしています。これからも読むだけにとどめず、実践を通じて知恵とし、己の血肉にすることを心がけたいと思います。