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大日本印刷の女性営業、管理職で「本当の社会人に」
チャンスはつかむ。アピールする。よく考えて"腹落ち"を!

2人の子どもを育てながら営業の第一線で働き続け、女性活躍の道を切り開く。
管理職の醍醐味を伝え、後輩女性のキャリアアップを応援中!
――メーカー各社のパッケージを担う包装事業部
大日本印刷の事業は、出版物や販促物、カードなどに関する製品やサービスを中心とした「情報コミュニケーション部門」、商品パッケージや住空間に関する製品を作る「生活・産業部門」、そして、印刷技術を応用して電子部材や光学フィルムなどを開発・製造する「エレクトロニクス部門」という3つの主要部門に分かれています。
私は「生活・産業部門」の包装事業部の営業部長として、現在は食品メーカーの商品パッケージを担当しています。
――増産の決断で、1000万個以上を出荷する大成功!
私が担当する取引先は、1社に1人の担当者が付き進めるスタイル。企画部門や製造部門と連携しながら商品の仕様やデザイン、パッケージの製造はもちろん、おまけなどの同梱物や販促物の企画まで手がけることもあります。
1人で営業を担当することは、すべての局面で表に立たなければなりませんし、決断を迫られる場面も多いです。工場に出向き、仕上がりをチェックするのも自分。責任は重大です。しかし、やればやっただけ大きな達成感があります。
以前、人気キャラクターのおまけをつけたカップ麺を担当したときには、想像以上の売れ行きに製造が間に合わず、1台しかなかった金型を4台に増やす大幅増産に踏み切りました。人気商品はスピードが肝心。工場の手配など苦労はありましたが、需要の波を逃すことなく1000万個以上を出荷できました。迷いもありましたが、思い切って増産を決断してよかったです。あの時は、やりきった感がありました。
――空気と水以外なら何でも印刷できる!?
商品パッケージは、なんといっても内容物の保全、そして扱いやすさが大切です。1枚にみえる包装紙にもじつは何層にも加工が重ねられていたり、どこからでも簡単に開けられるように工夫されていたり、様々な先端技術が凝縮されています。
デザインについても、高齢者にはどんなデザインがよいのか、色弱者にも違和感なく見える色使いは何かなど、あらゆる角度から検証が行われます。社内には開発やリサーチ部署もあるので、人の視線がどのように動いて物を認識するのかを読み解くアイトラッキングなどのリサーチデータを活用して、デザインに反映していくこともあります。
「空気と水以外なら何にでも印刷はできる。"できない"と言うなかれ!」とは、若い頃に先輩たちに言われたことですが(笑)、140年培ってきた印刷技術を背景に、できる限りのことをやっていきたいという気概はあります。社内外の多くの人とコミュニケーションを取りながら商品を作り上げていくこの仕事は、とても楽しいです。

――33歳で出産。1年間のブランクで感じた危機感
私は入社以来26年間、商品パッケージひとすじ。30歳で結婚すると同時に上級職になりました。ひと時代前の考え方かもしれませんが、当時は男勝りの働き方をしていました。
33歳で第1子の出産のため1年間休業したのですが、育児は忙しいものの家にいてもなんだか暇に感じてしまい……。やはり自分は社会に出て働いていたいと思いました。とはいえ、当時は子育てをしながら営業の前線に戻る女性社員の前例がなく、短時間勤務制度もなかったので、手探りのままフルタイムで復職。
夫は家にいてほしかったようでしたが、私の両親にサポートしてもらうことでなんとかやりくりしました。私自身はというと、とにかく1年間休んだブランクを取り戻したい思いでいっぱい。同期たちが管理職になっていくのを見ながら、「私はなれるのだろうか」と不安だったことを覚えています。
――仕事と子育ての両立。時間よりも自分の気持ちのやりくりに苦戦
仕事好きの人間が、仕事と子育てを両立していくときに立ちはだかる壁は、時間のやりくりよりも、気持ちの問題ではないかと思います。物理的なことはなんとかなっても、自分の気持ちだけはどうにもならない。「もっと仕事をしたいのに……。もっと子供との時間が欲しいのに……」と、どちらも満足できないまま時間が過ぎていき、一時期気持ちが崩れてしまいました。
「もっとゆっくり考えればいいんだ」と思えるようになったのは、30代後半で第2子を授かったころ。できない自分を受け入れて「目の前のことをやっていくしかない!」といい意味で開き直ることができ、肝が据わりました。
崩れた時期はありましたが、子どもを生んで本当によかったと思います。「子供たちにとって素敵なお母さんでいたい」と思うからこそ、仕事のモチベーションも保てますし、頑張れます。
――管理職になって、本当の社会人になる
女性には、結婚や出産だけでなく、もっと昇進も目指してほしいと思っています。管理職になるというのは、学生から社会人になって数年経ち、まるでもう一度社会人になるような、やっと一人前の社会人になるような、大きな変化です。
まず、入ってくる情報量が違います。組織の人間として会社と一体となり経営に関わる醍醐味があります。ものを見る視点や考え方も変わります。とても勉強になりますし、本当に面白い経験です。
3年ほど前から社内のメンター制度が本格始動し、私も参加。後輩女性たちの活躍を支援しています。ちょっとしたことを気軽に打ち明けられる"男性のタバコ部屋"のようなものが女性にも必要です。私が子育てを始めた頃は社内にロールモデルがいなかったため、いろんなことの乗り越え方がわかりませんでした。今は、自分が後輩たちの身近なロールモデルの一人になれればと思っています。
――後輩女性たちに伝えたい3つのこと
1つ目は「チャンスが来たらちゅうちょせず、つかむ」。女性は完璧主義なところがありますし、つい失敗の可能性も考えてしまいます。でも仕事の失敗で命まで取られることはありません。まずは「はい、やります!」と受けてしまいましょう。
2つ目は、「アピールしなくちゃだめ」。女性は周囲に目を配ることが上手な人が多く、相手の気持ちをくむことができます。その分、つい周囲に対して「言わなくてもわかってくれるはず」と思いがち。組織には、言葉にしないと伝わらない相手もいっぱいいます。奥ゆかしさもすてきですが、自分の仕事の成果や希望など、アピールすべきことはしっかり伝えていっていいと思います。
3つ目は、「自分のことは自分でよく考える。必ず"腹落ち"させる」。失敗したりつまずいたりしたときこそ、己と向き合い、知るチャンスです。どんな時もよく考えて自分で選んでいけば、他人のせいにすることもなく後悔もありません。"腹落ち"は仕事だけでなく人生にも大事なキーワードです。
――後悔は「する・しない」ではなく、してはいけないもの
ちなみに私は、後悔はしてはいけなものだと思っています。それは子育てを経験して思うようになりました。子供の成長は早く、その年ごとに悩みも変化していきます。あの時こうしておけば……と振り返っても意味がないんです。
それに、後悔をするというのは、まるで現在のその子を否定してしまっているみたいですよね。その子の子育ては1回しかなく、失敗はない。そう思っています。
――長い人生のなかでバランスが取れれば、それで良し!
私の夢は「なんでもできるスーパーウーマンになりたい!」(笑)。昔から変わりません。まだまだ道半ばです。
キャリアとは、仕事だけでなく人生すべてをひっくるめて描くものだと思いますし、ワークライフバランスは、1日や1週間の時間の使い方ではなく、もっと長いスパンで考えるものだと思っています。
てんびんはつねにバランスを保っているわけではなく、仕事のほうに傾く時期もあれば、家庭のほうに傾く時期もある。長い人生のなかでバランスが保たれていればいいですよね。

大日本印刷株式会社 包装事業部営業部長
1992年、大日本印刷に入社。包装事業部の営業として食品、医薬品、化粧品メーカーなどの商品パッケージを担当。2015年から営業部長。二児の母。東京都生まれ。
●取材後記
東京・市谷の高台にいくつものオフィスビルを持つ大日本印刷。かつては紙幣の印刷もしていた日本を代表する企業です。もともと男性社会だった印刷・製造業のど真ん中で、キャリア女性の道を切り開く根本さん。「週末は仕事関係者とゴルフに出かけることも。自分の時間が少ないといえば少ないですが、私には苦じゃないんですよ」と朗らかに笑います。ルールや常識は、職場環境によっても時代によっても変わります。仕事、家族、個人、どこで線引きするか、どんなバランスにするか、決めるのは自分。"腹落ち"していれば後悔なし、ですね。

大日本印刷の幅広い事業を見渡せるホームページ http://www.dnp.co.jp
[2016年7月7日公開のクラブニッキィの記事を再構成]