「勘違い店長」増加 はやるコンビニの接客どう違う?
梶原「なじみのお客さんも多い?」
店長「ええ、おかげさまで」
梶原「なじみ客を増やすコツってあるの?」
店長「従業員にも言うんですが、お客さんの顔と、よく買う商品を覚えておくってことですかね」
梶原「毎日何百人も来るお客の顔、覚えられる?」
店長「お客様って、来店時間がほぼ決まっているんです。ああこの方は前回もこの時間だったと、外の景色と一緒に記憶していく」
梶原「時間軸で整理して覚えるんだ」
店長「まあ、外が暗くなったころお見えになるとかですね」
梶原「一緒に、何を買うかも覚える?」
店長「そうですね、タバコの銘柄はほぼ確実に同じものをお求めになりますから、この方はセブンスターの何ミリみたいのは覚えておいて、レジに来られる瞬間に手元に用意しておいたりします」
梶原「へえ、でもたまたまそのときはタバコはいらないってことだってあるんじゃない?」
店長「そうなんですよ。でも私がそのタバコを持っているのに気がついたお客さんは、とってもうれしそうに言うんですよ。『きょうはコーヒーだけにしようと思ったんだけど、じゃあ、タバコも買っちゃおうかなあ~』」

(写真:PIXTA)
タバコ、ビール、お茶、コーヒーなど嗜好品は同じものを買う人が多い。さりげなく「いつでも出せる状態にしておく」は、常連作りの基本なのだろう。
余計なこと言わなくてよかったなあ……
店長「犬を連れて来るお客さんもいます。うちも小さな犬を飼っているからわかるんですが、買い物しながら、外にリードにつないで待たせた犬って気になるんですよね。だから自然にそのことを口に出します。『ワンちゃん、いい子にしてて、おりこうさんですねえ』みたいな」
梶原「うまい! それで好感度グンとアップさせるんだ」
店長「悪巧みみたいに言わないでくださいよ、本当のこと言っているだけなんですから。ま、結果的にはまた来てくれますけどね」
犬バカの私も「うちのワンちゃん」を褒めてもらうのは、何よりうれしかったからお客さんの気持ちはよくわかる。
店長「うちのチェーン店は、お弁当のご飯は各店で炊きたてをお出しします」
梶原「そうだね」
店長「ご飯の量もお好みで選んでいただきます。同じ代金ですが」
梶原「うれしいよね、若い人は多め、年配なら少なめとか、普通とか」
店長「夕方来たご年配の女性が『多めで』とおっしゃったんです。うちの多めは本当にものすごい量でしょう? その方が、それを知らずにおっしゃったなら『普通でも、結構ありますよ』とか言うべきかなと。ですが、それも失礼かなと思って、言われるままに、多めで、お渡ししました。翌日その方が来店。『あの余ったご飯、冷凍して、きょうチンして食べるのよ!』と話されて、とてもうれしそうにおかずを3種類買っていかれました。余計なこと言わなくてよかったなあと思いました……」
「伝統的なスキル」も、今以上に重要に
コンビニから人々の暮らしの様子がみえてくる……。
店長「ある日、白つえをついたカップルが見えました。お二人はお昼のお弁当をお求めだったようです。お二人に付き添い、ご案内したうちのバイト君の声が聞こえてきました。『左上に鶏の空揚げが5つ、そのすぐ右にポテトサラダ、プチトマトは……』。コミュ力がイマイチだなあ、と思っていた彼が、結構ちゃんと何種類かの弁当のおかずを説明していた。うれしかったですねえ。そのカップルさん? ええ、今も通っていただいています」
こういうスタッフの「接客ぶり」を、他のお客様は見ていないようでしっかり見ている。地球に優しいとか、自然に優しい。もちろん大事だが、人に優しいも同じように大切だ。
今後ビジネスでは、顧客拡大にIT(情報技術)やAIの発達が大いに寄与することだろう。と同時に、「接客」のような生身の人間が感情を交わし合う「伝統的なスキル」も、今以上に重要になっていく。
「客を増やす」にはこの両輪が欠かせないんだろうなあと、今さらながら感じたコンビニ店長との会話だった。

1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員を担当。
著書に『すべらない敬語』『そんな言い方ないだろう』『会話のきっかけ』 『ひっかかる日本語』(新潮新書)『敬語力の基本』『最初の30秒で相手の心をつかむ雑談術』(日本実業出版社)『毒舌の会話術』 (幻冬舎新書) 『プロのしゃべりのテクニック(DVDつき)』 (日経BPムック) 『あぁ、残念な話し方』(青春新書インテリジェンス) 『新米上司の言葉かけ』(技術評論社)ほか多数。最新刊に『まずは「ドジな話」をしなさい』(サンマーク出版)がある。