6・8・9は疲労、老化の目印? 40代の賢いあがき方

「老い」を実感し始める40歳代の賢いあがき方
40歳代に入ると、ふとした折に「なんだかこれまでと違うなあ」と感じることがある。
「そりゃあ年(とし)だもの」と「老い」を素直に受け入れる人ばかりではない。
「まだまだ若い! 加齢なんぞに負けてなるもんか!」
前向きにチャレンジする人がいる。
私はそういうファイティングスピリットを心から応援したいと思う。ただし、ひとつだけ「知っておいた方がよいこと」について「40歳代経験者」として伝えておきたい。
体力アップやリアル充実もいいが、あれこれ試す前に
(1)目覚ましが鳴って慌てて起き上がり、歯ブラシを口に突っ込んだ。ふと目にした鏡の中の自分が何ともうすらボンヤリにしか見えない。だめだ! あの、20歳代の、30歳代の頃のシャキッとしたシャープな俺、どこに行っちゃったんだ?!
ボヤッとしたこの表情……。気合が足りない! 仕事にかまけて体を鍛えないのが原因だ! よーし! 明日からジムに通って鈍(なま)りきった肉体に活を入れる!
肉体改造、大いに結構!
でもその前に……。
(2)朝刊に目を通すのがとみにうっとうしくなった。内外のニュース、様々な事件。仕事につながる興味深い記事だってたくさん載っているというのに興味がわく前にうんざりだ。ああ面倒くさ、なーんて、俺の人生このままでいいのか? そうだ、お見合いパーティーに参加して、良いパートナーを探そう!
そして、結婚。「テーブルの上に朝ごはんと日経新聞置いておきましたからね!」。新妻のやさしい声で、やる気満々の1日がスタートする、かもしれない。
でもその前に……。
(3)最近、どうも目がかすむ、チカチカする、ショボショボする。ブルーベリー系のサプリメントでものみ始めるか? しじみ系もいいらしいなあ。
健康な生活をサポートするサプリメントも有効だろう。
でもその前に……。
(4)TOEICのリーディングテスト。以前のように、答えにつながる単語が目に飛び込んでこない。スコアが伸びず、むしろ落ちている! このままじゃ社内の昇進は絶望的だ(某社では800点以上が必須とか)。睡眠時間を削ってもっと頑張ろう。
素晴らしい!
でもその前に……。
忍び寄る「老化」の諸問題を一瞬で解決する奥の手とは
「だから、何なんだ!」と激怒する声が聞こえてきそうだが、上に挙げた「40歳代が体験する諸問題」を、案外簡単に解決できる「意外なポイント」を体験からお伝えしたい。
それは「視力検査」だ。

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40歳代も前半、私はラジオ局のアナウンサーからフリーに転じ、忙しい日々の仕事に追われていた。声をかけていただく仕事は全てお受けすることに決めていたから寝る間もない日々が続いていた。
40歳代半ば以降、「実況中継」の仕事を頂くことが増えていた。
実況で大事なのは、数十メートル離れた遠くの様子を詳細に描写しつつ、ギッシリ書き込んでいた手元の情報に目を走らせ、即座に試合に目を戻す。この「遠→近、近→遠」を超スピードで何千回も繰り返す作業だ。
長いときはこれを10時間以上続ける。不思議なことに声は枯れずに「目」がやられた。
目は充血し、ショボショボし、翌朝目覚め、鏡に映る自分の顔を見れば、うすボンヤリして、まるで覇気がない。新聞をじっくり読もうなどという意欲も失っていた。
「40歳代も半ばを過ぎたから、そりゃあ、体力も気力も減退するわなあ」
半ばあきらめながら、仕事場に目薬、サロンパス、バファリンを携帯し頑張っていた。萎えそうになる自分に活を入れるため、早朝ジョギングを始めたのもこの頃だった。
「~なわけで、結構大変なんだ」
愚痴を聞いてくれた元ラジオ局の友人がさらりと言った。「それって、単純に、老眼なんじゃないの?」
彼は知り合いのメガネ専門店の責任者、Aさんを私に紹介した。
メガネ1本であっさりと解消した悩みやぐったり感
丁寧な視力検査のあと、Aさんが言った。「近視もありますが、老眼の進行も見られます。今は、近視用メガネをお使いですね。話を伺えば、遠と近のアンバランスを克服しようと、目の中の筋肉(毛様体)を相当に酷使なさっているご様子。おつらかったでしょう。これをちょっとお試しになりませんか?」
その場で組み立てられた仮の「遠近両用レンズ」をかけ、「ためし実況」した時の心地よさと驚きは忘れられない。
「境目のない遠近両用メガネ(現在はHOYA「おとなメガネ」)」と当時テレビでCMが流れていたそれだった。「メガネひとつ」で私の悩みはあっさり解決してしまった。
以来、年に1度は、メガネのメンテナンスや視力検査で店に立ち寄ることとなった。
年末、店の40歳代のスタッフと「40歳代、あるある話」で大いに盛り上がった。
40歳代を境目に目の見え具合はこんなに変わる
彼「朝のスマホは大丈夫でも、帰りのスマホはちょっと苦しい――。私たち世代の目の状況を表現するとこうなります」
梶原「朝の満員電車なら、スマホと目がくっつきそうな至近距離でも頑張れば文字を読めるが、仕事帰りの疲れた40歳代の目にはもう無理だ?」
彼「40歳代過ぎると、老眼、きますからねえ」
梶原「私も気がついたらそうでした」
彼「残業で疲労が蓄積するとパソコンの打ち間違え、特に数字入力のミスの確率が高まるといわれます。中でも、689がごっちゃに見え始めたら目の集中力が途切れた証拠って、聞いたことありますか?」
梶原「なんで689?」
彼「1234570の形を見れば、一目で違いが分かるでしょう? 一方、689の6の右、9の左の空間が微妙で、一瞬、3つの数字の違いが分からない。元気なときは別ですよ」
「689を取り違える=微細な差が見えなくなる=残業の切り上げ時」と、689を「疲労の目印」にすると、昨今話題の「過重労働」防止に役立つかもしれない。

1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員を担当。著書に『すべらない敬語』など。最新刊に『まずは「ドジな話」をしなさい』(サンマーク出版)がある。