無印良品のショック療法 社員を奮起させた社長秘策
「勢に求めて人に責めず」。つい精神論に向かいがちで、個人のモチベーションを期待しがちな私たちは肝に銘じておきたい言葉です。孫子の教えにはこのあとに、こういう言葉もあります。「丸太や石は、平らな場所では静止しているが、坂道に置けば自然に動き出す。勢いに乗って戦うとは、丸い石を谷底に向けて転がすようなものだ」
ぼんやりしているように見える人間でも、しかるべき場所に置けば、転がる丸太のように勢いを持って動き出す。将は、そんなふうに人を動かさねばならぬというわけですね。
それにしても、製品が焼却される光景を見せることによって「火を付ける」とはお見事な作戦。人は「悔しい」という思いを胸に抱いたときに本気を出します。「ちくしょう、こんなところで終わってたまるか」。その思いは未来をひらく、強いエネルギーになります。その思いを引き出した松井さんは「孫子の使い手」といえましょう。
私も著者の一人として、売れ残った自分の本が焼却される光景を少し想像してしまいました。実際のところ、絶版となって焼却された本も存在するわけであり、想像しただけでクラクラと目まいがしてきました。私には耐えられそうにありません。というわけで今回、私の編集者がこれを読んでまねしないことを祈ります。
※「孫子の『商法』」は火曜更新です。次回は2017年7月4日の予定です。
田中靖浩

田中公認会計士事務所所長。1963年三重県出身。早稲田大学商学部卒。「笑いの取れる会計士」としてセミナー講師や執筆を行う一方、落語家・講談師とのコラボイベントも手がける。著書に「良い値決め 悪い値決め」「米軍式 人を動かすマネジメント」など
