「コメントを一言」の薄っぺらさ 問われる取材者の志
取材する態度のゆるさが見え隠れ
芸能界や角界に限らず、スキャンダル、事件、騒動に絡んだ人への呼びかけは「一言、お願いしまーす」に統一すべしというお達しでもあるのだろうか。
記者会見が終了し、会見者が離席するその瞬間、記者・レポーターが追いかけるようにして「何か、一言お願いできますか」「こっちも一言、お願いします!」とすでに会見で2時間ほど質問に答えてきた会見の主役に声かけする記者をテレビで見た視聴者もいることだろう。そんなに聞きたいことがあったのなら、早めに現場に到着して、質問しやすい前の席に陣取り、早いタイミングで核心を突く疑問を鋭く突きつけ、親方を答えに詰まらせるぐらいのファインプレーを見せてほしいというのが我々外野が期待するところなのだが、そういう気配がまるで見えない。
吉沢ひとみ被告に話を戻そう。元人気アイドルの女性が保釈され、久しぶりに世間に姿を見せた場面だ。背筋を伸ばし、前に進み、深く頭を垂れ、その後、短い「謝罪コメント」を述べ、再び深々と頭を下げたのち、スタッフが用意した車に向かう被告。
「一言、お願いしまーす」と声をかけられた吉沢被告が「一言だけならいいですよ」と、アドリブで応じてもらえる可能性は、どう見たって0%だろうに。なぜ記者・レポーターから彼女に向けられた言葉が「一言、お願いしまーす」という「漠然とした問いかけ」だったのか?
(1)被告への気遣い?
(2)業界の流行言葉だから?
(3)限定しないほうが様々な含みを持った問いになるから?
思い浮かぶ理由はこんなところだが、これほど広まっていることの十分な説明になっているとは考えにくい。
「一言」の元祖だった梨元勝さん
この「一言、お願いします!」で思い出すのは、生前親しくお付き合いさせていただいた「元祖突撃芸能レポーター」の梨元勝さんだ。8年前の夏、がん闘病中の病床から電話でラジオ番組にも登場していただいた。
梨元さんといえば、「恐縮でーす」という言葉が浮かんでくるが、スキャンダルを起こした大物にも、人なつこい顔で「一言、お願いします!」と粘り倒した方でもある。いわば「一言、お願いします」の元祖だった。
梨元さんの「一言、お願いします」は上の(1)~(3)のどれでもなく、(4)取材を尽くして知り得た事実を確認するための「だめ押しの一言」だった。