農産品の知財保護、なぜ混乱した? 広がった「誤解」

日本のフルーツにはオリジナルに開発された品種が少なくない
日本で育成された農産物の品種を海外に持ち出すことを規制する法案が国会に提出されて話題になったわね。農産品の知的財産を保護するためだっていうけど、何が問題になったのかしら――。農産品の知財保護について、吉原典子さんと畑有美さんに吉田忠則編集委員が解説した。
――農産品の知財保護がなぜ必要なのですか?
2018年の平昌冬季五輪で、カーリング女子の日本代表がほおばっていたイチゴが話題になったことを覚えているでしょうか。あのあと、しばらくすると別の反応が出ました。「あれって、もともと日本の品種ではないのか」
チームが食べていたイチゴの詳細はわかりません。ただ、利用方法について条件つきで日本から韓国に渡ったイチゴが現地で広く栽培されるようになったことは事実です。
日本で育成されたブドウ「シャインマスカット」の例も有名です。苗木が海外に流出し、中国や韓国で栽培されるようになりました。タイや香港などに出回っており、日本から輸出しようとすると競合しかねない状況です。
こうしたことが今後も起きるのを防ぐのが、知財保護を強化する目的です。日本で育成した優良品種が海外で栽培されるのを野放しにしていては、輸出にとって大きなマイナスになってしまうのです。
――どうやって知財を守るのですか。
まず必要なのは、日本以外でも知財を認めてもらうために、海外で品種登録をすることです。農林水産省はそのため、種苗メーカーや研究機関が海外で登録する費用を補助する制度を設けました。
続いて農水省が実現しようとしているのが、国内で種苗を購入する業者を対象にした規制です。種苗メーカーや研究機関が品種を登録する際に、種苗の海外輸出を認めないことを宣言できるようにするのです。種苗を買った業者が違反すれば、刑事罰や損害賠償の対象になります。
大きなルールの変更になるので、法改正が必要です。そこで農水省は種苗法の改正案をまとめ、先の通常国会に提出しました。ところが予想外の反対論がわき起こり、法改正は見送られました。