生命保険解約し資本金に 社員4人のレコード会社創業
バンダイナムコアーツ 副社長 井上俊次氏(15)

誤植部分にシールを貼って発売したアルバム「I'm in you」のライナーノーツの最終ページ
市場規模が膨らんだ「アニメソング(アニソン)」ビジネスの立役者の一人がバンダイナムコアーツの井上俊次副社長です。1970年代にロックバンド「レイジー」で一世を風靡しました。井上氏の「仕事人秘録」の第15回では、自己資金でレコード会社を立ち上げた当時を振り返ります。
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当時は株式会社設立に資本金1000万円が必要でした。貯金だけでは足らず、生命保険も解約してかき集めました。社名には「マジックガーデン」や「ソリッドボックス」などいろいろな案がありました。悩んだ末、かつて新レーベル設立時に漫画「サイレントメビウス」の麻宮騎亜先生に名付けていただいた「ランティス」に決めました。
楽曲制作は創業メンバーでできますが、課題はディストリビューション(販売)でした。そこで、流通網を持つ販売パートナーを探してユニバーサルミュージックさんなど大手から順番に回りました。設立間もないランティスと契約を結んでくれるわけもなく、ことごとく断られました。
訪問先がなくなり、最後はキングレコードさんでした。アニメ関連のレーベル「スターチャイルド」があり無理は承知でしたが、年間売上高が2億円の事業計画を信頼して契約を決めてくれました。責任者は重松英俊さん。80年代にネバーランドのディレクターでお世話になり、当時は役員に昇進されていました。
運も味方しました。キングレコードには「新世紀エヴァンゲリオン」のプロデューサーも務めた実力者の大月俊倫さんが、当時はちょうど社外にいらっしゃった時期。後に大月さんが戻られると「こんな話は聞いてない!」と怒られたそうです。重松さんの昇進と大月さんの不在。この2つが幸運のポイントでした。