「はやぶさ」開発が本格始動 目標をイトカワに変更
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 元シニアフェロー 川口淳一郎氏(9)
時期遅れや機器不具合など問題山積
打ち上げの予定が遅れ、目標の小惑星を「イトカワ」に変更した。
当初の計画では目標にした小惑星は「イトカワ」ではありませんでした。しかしエックス線天文衛星を搭載したM5ロケット4号機が打ち上げに失敗。はやぶさを搭載する同5号機の打ち上げが延期されたため、タイミングがずれて目標にしていた小惑星に向かうことが難しくなったのです。
目標をイトカワに変えましたが、イトカワより容易に到達できる小惑星を目標にしていたので、M5ロケットの打ち上げ能力では少々力不足です。イオンエンジンによる加速と地球を利用して加速するスイングバイを併せて十分な速度を得る手法を考え出しました。当時、宇宙研では他の人工衛星を打ち上げる計画もあり、スイングバイを思いつかなければはやぶさの打ち上げは後回しになっていたかもしれません。
イトカワに向かう打ち上げのタイミングは当初計画より1年遅い2002年末か03年5月。このタイミングを逃すと、目標の小惑星探しからやり直さねばなりません。
それにも関わらず搭載機器の不具合など問題は山積でした。小惑星に着陸するときに欠かせないレーザー高度計は、温度が変わると計測に狂いが出ます。担当者は問題点を完全に解決したいと言いましたが、打ち上げは待ってくれません。やむなく「そのままでいい」と決断しました。温度が一定になるよう飛行すればいいと考えたのです。完璧を期すよりも、こうやればできるという解決策を見つけて前進しました。
[日経産業新聞 2020年5月13日付]