故障乗り越え、イトカワに到着 惑星間飛行を実証
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 元シニアフェロー 川口淳一郎氏(12)

はやぶさのイトカワ到着を喜ぶプロジェクトチーム(ボードを持つのが川口氏)=JAXA提供
エンジンの故障をはじめ数多くのトラブルに見舞われながら、困難を乗り越えて地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)でプロジェクトマネージャを務めた、元シニアフェローの川口淳一郎氏は、小惑星からサンプルを持ちかえる世界初の試みを成功に導いた。川口氏の「仕事人秘録」の第12回では、はやぶさのイトカワ到着に至る苦難を振り返ります。
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最後の減速を終えてイトカワから約20キロメートルの上空に静止しました。途中で4基のイオンエンジンのうち1基の調子が悪くなったり、姿勢を制御するリアクションホイール3基のうち1基が故障したりしましたが、往路は完走です。はやぶさから届いたイトカワの写真を見て「やっと着いた」という思いでした。
はやぶさの1番の挑戦はイオンエンジンによる惑星間飛行の実証でした。往路での4基のイオンエンジンの総運転時間は計画通り2万5800時間に達し、実証の最低目標の1000時間を大幅に超えました。
もう一つ重要な挑戦に、目標の小惑星まで探査機を正確に誘導する航法技術がありました。イトカワの全長はわずか500メートルしかありません。地球からの距離は約3億キロメートル。到達するには、東京から2万キロメートル離れたブラジルの空を飛んでいる体長5ミリメートルのムシに弾丸を命中させるような精度が求められます。
地球から誘導するだけでは精度は百万分の1が限界。3億キロメートル先では300キロメートルのずれが生じます。そこで、はやぶさがイトカワ方向をカメラで撮影して星図のデータと比較し、イトカワとはやぶさの位置を推定する技術を採用しました。この電波・光学複合航法をとると精度はさらに1000倍上がります。この技術を実際に使ってランデブーに成功したのは、はやぶさが初めてでした。