サンプル採取装置、動かず 失敗のリスクに青ざめ
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 元シニアフェロー 川口淳一郎氏(15)
記者会見でぼかされた「失敗」
弾丸発射失敗の発表では、透明性が十分でなかったと後悔が残った。
着陸した11月26日の会見では弾丸発射の指令が確認されたと発表したので、マスコミでは「サンプル採取成功」と報じられています。失敗した可能性があることを発表するため12月7日に記者会見しました。
用意された会見資料を見ると、ポイントの「弾丸発射の失敗」が最後まで読まないと分かりません。ウソはついていませんが往生際が悪い。こういう発表の仕方はよくないと思い、最初にはっきりと書くべきだと主張しましたが、結局、修正されないまま会見することになりました。会見途中で資料を先読みした記者が連絡のために席を立つ姿をみて「そりゃそうだろうな」と心苦しく思いました。
失敗を隠してもいいことは何もありません。隠さずに告げたほうが、その後の処理も余計なプレッシャーを受けずにすみます。一度ダメだったと区切りをつけることで、次にどうしたらいいかを考えることができると思うのです。
弾丸発射には失敗しましたが、装置の筒先がイトカワに接地したときにサンプルの微粒子がとれている可能性はありました。地上での再現実験もその可能性を示していました。この後も多くのトラブルに見舞われましたが、サンプルの採取を信じて地球帰還まで運用に取り組みました。帰還したカプセルを開いて多くの微粒子が確認できたときは本当にホッとしました。
[日経産業新聞 2020年5月27日付]