行方不明でもあきらめず 巨大アンテナではやぶさ捜索
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 元シニアフェロー 川口淳一郎氏(16)
応答ゼロが続き、鈍りかけた士気
プロジェクトを継続するよう宇宙航空研究開発機構(JAXA)経営陣を説得。チームの士気を保つために心を砕いた。
はやぶさが行方不明になったとき、心配したのは「年度末が迫っている」ということでした。新年度の予算で、行方不明の探査機は真っ先に削減の対象になりかねません。予算がつかなければプロジェクトは打ち切りです。「貴重な小惑星のサンプルを持ちかえる可能性があり、復旧の見込みも60~70%ある」。そう説明して経営陣に継続を認めてもらいました。
実は「60~70%」という数字にはトリックがありました。はやぶさの復旧に必要な条件が整う確率で、復旧する確率ではないのです。実際に復活できる確率はもっと低くなります。しかし経営陣もそれを承知の上で、継続を認めてくれたのだと思います。
プロジェクトの継続は認められましたが、はやぶさへの信号を送り続けても返信は届きません。メンバーもいてもやることがないので次第に足が遠のいていきます。そこで意図的に会議を増やしました。これからどうするべきかを検討して具体的な行動を割り振る。まだ望みがあることを認識してもらい、士気の低下を防ごうと考えたのです。
もうひとつ、管制室のポットのお湯を自分で毎日取り換えました。お茶を飲もうとしてポットにお湯もないと、プロジェクトの終わりが近いという印象をもたれかねません。「あきらめていない」というメッセージを出し続けたのです。
[日経産業新聞 2020年6月2日付]