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「万一」を織り込んだチームの知恵

生き残ったイオンエンジンが故障。地球への帰還が困難な状態に陥る。

これまで順調に働いていた1基が停止。残る1基は通常の6割程度の出力しか出せません。地球に戻れないまま、宇宙を漂うことになりかねない状況です。イオンエンジンの故障を発表する一方で、原理的に可能と思える救出方法が使えないか検討を始めました。

イオンエンジンはイオン源と中和器と呼ばれる装置でできています。別々のイオンエンジンのイオン源と中和器をつないで、1基のエンジンとして使うことが原理的に可能です。開発段階でも検討した方法で、イオンエンジンを開発した国中均さんたちに可能性を検討・調査するよう指示しました。

検討に時間がかかると思っていたのですが、翌日、国中さんから「回路上は可能」という返事がきました。最初、なぜ回路上はと原理的にわかりきったことを説明するのか、不思議でした。話を聞くとはやぶさの中和器は本来の回路設計なら別のイオン源と組み合わせて使えないものでした。しかしイオンエンジンチームがまさかの時のために、バイパスダイオードという回路を組み込んでいたおかげで動かせたのです。

実際に試してみると最初の組み合わせはうまく動きません。しかしかすかに反応はあります。次の組み合わせを試すと、はやぶさは加速を始めました。

バイパスダイオードは正常なら必要ない冗長設計の部分です。最善の冗長機能をはかる努力が、全体を救うことにつながります。回路を入れておいてくれたチームの想像力と機知には脱帽する思いでした。

[日経産業新聞 2020年6月4日付]

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