「はやぶさ」、長き旅を全う 再突入直前までトラブル
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 元シニアフェロー 川口淳一郎氏(19)
最後は一人で見届けた「炎の再突入」
当日の朝はトラブルで始まりました。はやぶさの姿勢を検出する装置が故障したのです。正確な姿勢制御ができないと再投入はできません。担当者は全力で復旧に取り組みました。
再突入する約2時間半前の午後7時51分に、はやぶさ本体からカプセルを切り離しました。予定より帰還が遅れたためカプセルを切り離す火薬部品が正常に作動するか不安でしたが、無事に成功しました。
大気圏に再突入するカプセルの速度は毎秒12キロメートルもあり、スペースシャトルよりずっと高速です。表面の温度は約3千度まで上がり、地球の重力の50倍という強烈な力も受けます。
はやぶさ本体が正常なら地球を再び離れて、他の惑星の探査に向かうことも可能です。しかし満身創痍(そうい)のはやぶさにはそれができません。カプセルとともに地球に再突入して燃え尽きてしまうしかありません。カプセルを切り離した後に地球を撮影しましたが、姿勢が安定せずようやく1枚だけ地球を写すことができました。
はやぶさとの通信が途切れたのは午後10時28分。再突入には30分ほどの時間がありましたが、運用はこれで終了です。スタッフ同士が「お疲れさま」と声を掛け合う中、私は管制室を抜け出して研究室に戻りました。管制室は外部と遮断されているため、はやぶさの再突入を映すインターネット中継が見られません。ひとりではやぶさの最後の姿を見届けたかったのです。
しばらくするとパソコン画面に細い光の線が走りました。次の瞬間、先頭に明るい光の球が生まれ消えていきました。7年間、60億キロメートルの旅を全うしたはやぶさの最後の姿でした。